2005年12月02日

変わる米国の国際戦略

 米国の国際戦略が明らかに変革の様相を呈しています。ブッシュ米政権は30日、中長期的なイラク政策を定めた国家戦略を発表し、情勢次第では来年に駐留米軍を削減する可能性を始めて公式に明らかにしました。軍事を中心に国家戦略を立てていた米国共和党政権にとって、これは明らかに変化です。この状況を説明するには、米国共和党内の2大派閥の対立についてから考えなければいけないと思います。

米国共和党にはその時代時代に主導権争いをしている二つの派閥があります。

@ウォールストリート保守派
 東北部の有力な経済団体によって代表され、民主党政権やリベラリズムとも共存してきた、保守の中では比較的穏健なグループ。政策的立場は対外的には国際主義的で、ヘンリー・キッシンジャーなどに代表される実際的外交政策を支持していました。内政面では、何よりもインフレへの懸念と予算均衡を重視し、抑制された福祉国家に対してはそれなりの理解を示しました。リベラリズムと接近する態度を表明する人々も多数含まれており、保守主義というよりも中道右派というイメージです。第41代アメリカ合衆国副大統領ネルソン・ロックフェラーなどはこの派閥の代表でしょう。

Aニューライト
 中西部から南部、西部を中心とした企業家などによって支持されるグループ。このグループは反ヨーロッパという意識が強く、自由放任主義と独立独歩、「小さな政府」の実現と反ワシントン(反連邦政府)主義、減税などによる私企業の活動の育成、徹底した反福祉国家主義など、アメリカらしい保守主義のメンタリティを典型的に代表するものといえます。その背後には西部劇に象徴されるような自力で生きる人間への根強い共感があり、「強靭な個人主義」の信望者たちからなるグループです。第一のグループが東部エスタブリッシュメントと見られるのに対して、このグループはエスタブリッシュしていない、荒々しい社会的上昇・下降に身をゆだねるグループといえるでしょう。孤立主義的メンタリティが第一のグループに比べて格段に強く、良かれ悪かれアメリカ保守主義の性格を最もよく示したのがこのニューライトです。ゴールドウォーターやレーガンはこの派閥の代表的人物です。

 さて、今米国で何が起こっているのかですが、上記の説明を見ていただければわかると思うのですが、簡単に言うとニューライトからウォールストリート保守派への主流派の変化です。直接の契機としてはCIAの情報漏洩疑惑によるチェイニー副大統領の影響力低下ですが、もっとずっと昔から「切り崩し」は行われていたのでしょう。まだまだ過渡期であり、ニューライトが勢いを取り戻すという可能性もありえると思いますが、とりあえずこれから米国共和党のとる戦略がどうなるのかについて考えてみたいと思います。

 ウォールストリート保守派のところでも書きましたが、この派閥の特徴は「実際的外交政策を重視する」ことです。これまでは軍事を特に重視してきた米国共和党ですが、これからは力点が外交政策に移る可能性が高いでしょう。日本の外務省に当たる国務省長官のライス氏が影響力を強めているというのはこういう理由に当たります。また、ウォールストリート保守派はニューライトほど反欧州というわけでもないので、これから日米同盟の重要性が相対的に低下する可能性もあります。米中関係はこれまで程反共でもないので、改善するでしょう。

 さて、日本の政治に対する影響ですが、これも簡単に言ってしまいますと、自民・民主党の中でも特に米国の国防筋と繋がっていた議員の影響力が低下することになるでしょう。例を挙げますと自民党では小泉首相、額賀防衛庁長官、久間総務会長や民主党内の前原一派です。今をときめく防衛族であったはずの西村慎吾議員があんなにあっさり失脚してしまったことも無関係とはいえないでしょう。前原党首は小泉首相などよりはるかに防衛に依存していますので(「民主党の外交政策」参照)、前途は多難です。この米国の方向転換が、世界に、そして日本にどのような影響を与えるのかはこれから注視していかなければいけません。

(参考文献)
佐々木毅 『アメリカの保守とリベラル』 講談社学術文庫




posted by 正弘 at 05:21| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>今をときめく防衛族であったはずの西村慎吾議員
あの人防衛族だったのか('ロ';)
知り合いの制服組の方がただタカ派なだけでむしろ迷惑とか言ってたが・・・
Posted by at 2005年12月15日 18:03
コメントありがとうございます。

まあ元々民社党ですからね。基本的に民社党系は日米安保のときに賛成したグループから成っていますから、アメリカの防衛関係とつながりが深いもののようです。
Posted by 正弘 at 2005年12月16日 08:33
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。